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近代科学を切開する

   

クローン猿誕生で真に危惧すべきは「人間複製」への応用ではない②

【①の続き】

人間の胚細胞での研究には限界「受精卵以降は生命」という認識

 さて、第三の胚性幹細胞に関する論点とは何か。受精卵から動物の初期発生段階までの幹細胞は、すべての生体組織に分化する能力を持つ万能細胞だ。この胚性幹細胞を利用した再生医療の研究が、大学の基礎研究としては広く行われてきた。ES細胞という用語を聞いたことがある人は多いと思うが、このことである。マウスレベルではES細胞の研究には問題がない。

 しかし、人間のES細胞を利用した研究をやってもよいかどうかとなると、国によって意見が分かれる。この研究、有効な治療法がない難病を治す道が発見できる可能性がある。一方で、受精卵以降の段階が生命であるという考えに立つ人は、人間の胚細胞由来の研究を禁止すべきと言う。

 現状、この3番目の論点の判断は国によって分かれる。研究を認める国がある一方で、アメリカではブッシュ政権時代に公的予算によるES細胞の研究は打ち切られた。日本では不妊治療の際に母体に戻されなかった胚のうち、廃棄が決まったES細胞の研究が認められている。

 倫理的、現実的なハードルから、人間の胚細胞での研究には限界がある。その代替手段として、霊長類で基礎研究をしなければならない領域が多く存在する。

 そして第四の論点として、そうした場合、動物虐待禁止の観点から、霊長類の医学的研究に対しても、一定の制約が提起されることになる。アメリカでは、動物虐待を包括的に禁止する法律に沿って研究機関は行動しなければならないが、中国にはそのような法律はない。

 今回の研究チームは、アメリカの動物福祉と同じルールに従い、カニクイザルの虐待にならないよう、十分に配慮して研究を進めたと言われる。一方でチームは、研究の目的について「ヒトの医療に役立つ実験動物をつくるためです」と語っている。
新たな倫理問題は
「クローン人間」ではない

 中国のチームも大前提として、「人間のクローンをつくるつもりはない」と断言している。しかし、真の論点はそこではない。人間ではできない実験を、先にカニクイザルで実現してしまったということが、新しい問題なのだ。

 まずは、カニクイザルのクローン技術を完成させた。論理的にその先にあるのは、カニクイザルを利用して人工臓器をつくる実験など、人間の幹細胞では倫理的に難しい、ないしはスピードに制約のある分野の研究を、他の霊長類で進めるための技術的な道が開けたことになる。

 ここには新たな倫理的問題が内包される。本来は猿に育つ可能性がある細胞に、一定の化学的処理を施せば、その細胞は膵臓なら膵臓、心臓なら心臓にしか進化しないものになる。理論的には、そうなると考えられている。

 そうした処理をしたものを、たとえば猿の子宮で育てる。こんなことは人間ではできない実験だ。しかしどこかの国で霊長類の実験体を準備する研究者が出てくるとしたら――。その可能性こそが新しい問題なのである。

 最終的に霊長類の人工臓器が完成したら、同じものを人間のiPS細胞でできないか研究する。そうすれば「最初から人間になる可能性のない細胞を使って臓器をつくる」ことができるから、人間に関してはすべての倫理的な問題をクリアできるかもしれない。

 ところがそのためには、無数のカニクイザルの胚細胞が化学処理され、それがカニクイザルの子宮に戻されることになるだろう。そう考えると「霊長類を使って人工臓器をつくる研究は、倫理に反しないのか」という疑問がわいてくる。このような意味で霊長類クローンの誕生というニュースは、医療研究の倫理に新たな問題を投げかける出来事でもあったのだ。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)





匿名希望
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