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近代科学を切開する

   

あるいは、好機では

長谷川様へ
 ご投稿を読んで、中村桂子氏の「生命科学と人間」の一節を思い出しました。以下、その一部の引用です。

 「『科学と人間』といいますと、二つの反応が見られます。一つは疑い、時には嫌悪です。科学は分析的、還元的である。人間は有機的、総合的な存在として見なければ何も分からないものであり、科学的に人間を見ていくことは、いわゆる人間の尊厳をおかす行為であるという受けとめかたです。
(中略)
 もう一つの反応は、科学はすべてを説明してくれるという期待です。老化を防ぐにはどうしたらよいか、科学に説明を求めるのです。」

 同氏の言明は、ここでは生命科学に絞って行われていますが、「科学」に対する態度・考え方の両極端として、「疑い・嫌悪」と「科学万能」が挙げられましょう。

 前者の場合、恐ろしいのは、「科学」を独立した存在、一人歩きする、自律的存在として非難することです。あたかも「科学」という怪物が人間とは別個に存在しているかのように。
 「科学」が人間の営為・意識の産物であることを忘れることです。機械が出来たから職を失った、機械を壊せというラッダイト運動と同じく、短絡的な思考ですが、考えやすく、語りやすい内容です。
 恐ろしいのは、科学をを生み出した社会、その中で育まれた人間の意識、それを受け留める社会と人間が捨象されることです。
 
 後者の場合、「機械によって自然力の狭い制限から人間を解放した」、18世紀後半の「産業革命」以降、外界を完全に対象化し、思うままに操ることが「可能」という前提に立ち、多くの欲求が「科学」技術によって現実に叶えられてきたことによっており、この「信仰」は極めて根強く抜きがたいものです。「科学技術によって出てきた弊害は科学によって必ず解決されるはずだ」という「信仰」です。ここでは、なぜ害をもたらした「科学技術」が生み出されたのかという観点、自動車が走っている、排気ガスを撒き散らし、人を殺傷し、騒音を立てる自動車がなければ生活できない社会が形成されたのはどのようにしてかについての観点が欠落していると思われます。便利・便益を専ら追求する社会が「科学」をそのようなものにしたのではないか。

 岩崎武雄氏は「正しく考えるために」の中で、次のように述べています。
 「科学はただ事実のあり方を解明するものです。事物がいかなる仕方で存在するかということ、それがどういう構造をもっているかということを解明するものです。事実判断と価値判断を混同してはなりません。科学が与え得るのは、このうちの事実判断のみです。そうであるとすれば、科学がいくら発達したところで、一切が科学で解決されるということはないはずです。なぜなら、科学が価値判断を与えないとすれば、われわれはどうしても価値判断を与えてくれるものを必要とするからです。
 実際われわれは価値判断なしに生きてゆくことができません。われわれは生きてゆく限り絶えず行為をしなければなりませんが、行為するに当たってはいかなる行為を為すべきかということを考えねばなりません。どういう行為がよいかという価値判断を下さねばなりません。われわれにとって不可欠なこの価値判断が科学によって与えられないとするならば、われわれには科学以外のものが必要です。
 そして、この価値判断を与えようとすることが哲学の主たる仕事といえるのではないでしょうか。」

 この価値判断が「認識」ということではないでしょうか。
 事実は事実です。水素原子二つと酸素原子一つで水分子一つができます。
 その事実を活用して、どういうものを生産するかは価値判断です。その価値は社会の要求と考えられたことー何をそうだと認識するかで決まります。

 その判断を「専門家」任せにできるのが、現在の社会・国家体制ではないでしょうか。
 技術面のみならず認識面まで。

 科学という、人間の世界・自然認識の営為の成果が、人類滅亡に繋がるもので合ってよいはずはありません。「人類滅亡」に繋がるものにしたのは人間です。人間はそれを阻止することが出来るはずです。個々の現象への対応策も焦眉の急を要することでしょう。しかし、それ以上に重要なことは、「科学」の成果は社会全部のものであり、一部「専門家」にまかせておいてはならないということです。
 
 おっしゃるように「科学」、「科学技術」のあり方をひとりひとりが自分を含めた社会・人類全体の問題として考えていかざるを得ない状況が今まさに現出しています。

 これはよい状況とはいえないでしょう。しかし、逆に「専門家任せ」にしてきた「科学」を本当に人類に益するものとしてゆくべく考える好機であるともとれるのではありますまいか。

 批判の上に立ちつつも、そうした前向きの方向で考えて参りたいと存じます。




中村朋子
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